バレンシア王国の王都から南へ数十リーグ、小さな村「ロサーナ」には、今年も豊かな実りが約束されていた。アントニオはその村で農業を営む青年だった。親を数年前に病で失ってからは、たった一人で麦畑と向き合い、耕し、育ててきた。
でも、ひとりじゃな
い。アントニオには心に決めた婚約者、村娘のマーガレットがいた。
ところが、その日。黄金色に波打つ麦畑のそばの農道に、高級な馬車が止まった。
降り立ったのは、見たこともないような豪奢な服を着た男と……もうひとり。信じられないことに、マーガレットだった。
「……マーガレット?」
アントニオが呼びかけると、彼女は軽く鼻を鳴らして笑った。
「アン。わたし、結婚やめる」
「……え?」
「婚約、破棄するわ。ごめんね。でも、もう決めたの。わたし、サラゴサ男爵様と王都で暮らすの。あんな畑の土なんて、もう触りたくない」
耳を疑った。何を言ってるんだ、マーガレット。
「……マーガレット、そいつに騙されてるんだ。男爵が、村の娘と本気で付き合うわけない。王都に行ったって、どうせすぐ捨てられる。そんなの……遊びに決まってる!」
必死だった。怒りというより、彼女を守りたい一心だった。
だが、その時。
「貴様ぁ……!」
男爵が、鷹の羽をあしらった帽子を払って、アントニオを睨みつけた。その目には、蔑みと怒りがあった。
「このサラゴサ男爵の、真実の愛を……愚弄したな、平民が!」
男爵の号令で、背後に控えていた従者たちが動いた。ゴツい腕を持った男が二人、麦畑にズカズカと踏み入り、苗を蹴り倒していく。たわわに実り始めた麦の穂が、無惨に踏みつけられる。
「やめろ……やめてくれ!!」
アントニオが走り寄るが、男爵の手下が拳を振るう。
ゴッ。
強烈な衝撃が頬に走り、視界がぐらりと揺れた。そのまま地面に倒れ込み、泥の匂いが鼻を突いた。
「平民のくせに、俺様に説教だと? 身の程を知れ、田舎者が」
男爵の靴が、アントニオの顔すれすれで地を踏み鳴らした。
「行くぞ、マーガレット。こんな泥まみれの世界と関わっては、おまえの美しさが穢れる」
「うん、ありがとう、男爵様。……もう、こんな村に未練なんてないから」
ふたりは、夕陽に染まる麦畑を背に、馬車へと戻っていく。破壊された麦の中で、アントニオは地面にうずくまったまま、目を閉じるしかなかった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-18 20:10:00
30582文字
会話率:35%
精霊信仰の盛んなクレセント王国。
その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。
まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。
※
以前短編で投稿していた作品をまとめて、同人誌書き下ろし分を追加しました。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-17 20:43:33
14441文字
会話率:28%
精霊信仰の盛んなクレセント王国。
身に覚えのない罪状をつらつらと挙げ連ねられて、第一王子に婚約破棄された『精霊のいとし子』アリシア・デ・メルシスは、第二王子であるカイン王子に求婚された。
そこに至るまでのカイン王子の話。
『まったく心当た
りのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?』(https://ncode.syosetu.com/n7069he/)のカイン王子視点です。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-05-30 18:00:00
3627文字
会話率:3%
精霊信仰の盛んなクレセント王国。
その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。
まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。
最終更新:2021-09-05 18:24:24
4593文字
会話率:45%
女神のいとし子が眠ると言われる聖なる洞窟があった。その洞窟の奥には魔王を殺せる破邪の剣が安置されている。三百年に一度の魔王復活に当たり、破邪の剣を取りに行った勇者一行は、思いがけずいとし子の眠りを覚ましてしまう。いとし子を起こされた女神は激
怒して……。
ギャグです。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-01 06:00:00
3550文字
会話率:29%
異能の力と頑強な肉体を持ち、時に畏れられ、時に敬われてきた稀人-まれびと-。
その力を恐れ、保護という名の管理を執行しようとしている政府。それに対抗しようとした女たちを、人々はこう呼んだ。
「魔女」と――――
花影あずみは一般的な女子
高生である。普通に起きて、普通に生活して。平凡な日常を愛するだけの、ただの女の子である。
否、正確にはただの女の子「だった」というべきか。
「魔女」と「いとし子」。運命に振り回されることとなったあずみは、やがて世界の波乱へと巻き込まれていく。
月曜午前三時に更新予定です。カクヨムさまにも投稿予定です。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-03-31 03:00:00
30549文字
会話率:46%
世界樹から生み出された少女ティアは、歌うことで周りを浄化することができる。その力で人間に虐げられていた不遇な王子リセルを助け、世界中を浄化した。
世界が人間の脅威から解放された後、ティアは世界樹が守護する聖域に帰っていく。一方、リセルは王
位継承問題に直面し、暗殺されかけ聖域へと逃げ込むが、そこは瘴気の立ちこめる死の森で……!?
果たして、リセルが聖域で見たものとは!?
これは、ティアとリセルの運命の物語を描く青春ファンタジー。
「大地編成、歌うたいは世界樹のいとし子のために」の続編になります。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-07-12 12:37:59
62611文字
会話率:57%
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感
なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-01-15 18:12:02
151193文字
会話率:47%
R-15は保険です。
国内人気ホラーゲームに登場していたNPCモブゾンビ少女が魔法のある世界に転移してしまう。
これ以上死なないからという理由で研究対象な生活を送りつつもある程度自由もきくし何か魔力芽生えちゃってるし魔獣ちゃんから懐かれち
ゃってるのでこの子と一緒にこの不思議な世界を観光します。
見た目を魔法で偽造してるから目立たないはずなのに、子供にしては魔力が膨大で魔獣を連れまわしてるからって女神のいとし子ってなんじゃそりゃ!
目立ちたくない人間怖い!だれか、たすけて!
あ、ごめんなさい。プレイヤーさんには言ってないです。
人間恐怖症なゲームで倒されるだけだったマイナーモブゾンビ少女が、ゲームじゃない異世界に連れていかれて、プログラムられていない展開に翻弄されつつも頑張るおはなし。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-10-30 21:40:37
5010文字
会話率:11%
ある日、悪役令嬢メルティア・フォン・ライトバードに転生した佐藤優有。前世で悪役令嬢転生モノはよく読んでいたため死亡フラグをバッキバキに折っていく。さらに、きっとすぐに興味を失いそうな完璧な淑女になり着実にシナリオを変えて行ったメルティア。し
かし、攻略対象としても貴族としても一番会いたくない王太子が全然離れてくれなくて……!?これは平穏を望んだ神々のいとし子である【元】悪役令嬢が結局いろいろトラブルに巻き込まれる物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-09-17 18:48:10
6861文字
会話率:29%
処刑は明日に決まった、と牢番がエレンに告げた。
火刑だそうだ。
その罪は「悪魔を使役した上に、精霊王のいとし子を騙ったこと」だと言う。
────かつて精霊王の加護を受けていた国に伝わる、ふたつのおとぎ話とその真相。
あるいは、精霊王の未
熟な末息子と精霊のいとし子の恋物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-01-06 09:16:53
13997文字
会話率:19%
サイハテ、という場所がある。
そこは、世界から忘れられたものや、役目を終えたものが流れ着く終着点のような場所だ。
ある日、とある令嬢が流れ着き自分は婚約破棄され流されたと話始め…
サイハテに住まうセーラー服を着た魔女と、世界から追放された
精霊のいとし子セトという青年が異世界の欠片を見にいったり触ったり色々する物語。
の、パイロット版です。本編書き上げる前にこれ本当に大丈夫か?という思いで書きました。
※追放、悪役令嬢、聖女、ざまあなどなどよくあるシチュエーションをスナック感覚で味わえるものです
※ノベプラでも掲載中折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-09-25 19:14:07
12617文字
会話率:53%
アイリスは精霊のいとし子と呼ばれる伯爵令嬢。
カージナル王子の婚約者候補の一人だが、なぜか卒業パーティーで婚約破棄を宣言され、戸惑いながらも誤解を解いていく話。
最終更新:2020-12-16 23:17:40
9366文字
会話率:40%
人と精霊が共存する世界
『精霊のいとし子』と呼ばれる異世界からの転移者。それを擁護する国は富み栄えるため、その顕現を知った各国は『いとし子』を手に入れようと奔走する。
騎士団を追われ傭兵となった狼人グレイは、『精霊王の庭』と呼ばれる仙境で『
いとし子』を見つけ出すが、まだ三歳の幼子は、人間を怖がり、狼に変化しているグレイに懐いた。
グレイの友であったランドヴェールの王と王宮の人々は、『いとし子』を保護しようとするが、仙境で長く過ごし、人に馴れぬ子供を育てあぐねる。
唯一、音楽が両者の橋渡しになるかと思われたが・・・
狼に変化する青年と、もふもふ好きな幼女との、ゆっくりまったりのお話
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-06-15 11:43:54
24951文字
会話率:30%
ここはどこ? 気が付けば私は一人白い空間にいた。私は徐々に記憶を思い出す。
私の名はエレイン・ド・スライク伯爵令嬢いえ結婚してエレイン・ロード・ブルゾ王妃。ああ……違うわね。私は地位も名誉も家族も奪われただのエレインとして死んだ。いえ、処刑
された。国王に……私の夫だった男に。あの女が私達の運命を狂わせた。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-02-09 00:00:00
5606文字
会話率:25%
復讐するは我にあり 人の子よ、汝は神のいとし子であることを知るがよい 私のキリスト教遍歴ノートより
キーワード:
最終更新:2019-01-05 18:56:54
4090文字
会話率:5%
クリスマスの日に出会った男女。赤ちゃんを中心に二人の関係はおかしな様相を見せていきます。
※これは短編「ストランドの聖夜」から始まる連載です。既読の方は二話から読んでください。これはサマー家シリーズ第五弾になります。
最終更新:2017-12-11 16:08:04
58308文字
会話率:46%