湖の見えるベンチにイーダは座る。王宮に戻る前に、食べそこねたお昼をすますことにしたからだ。
1品目は肉の燻製をはさんだパン。口に含むと麦穂と牛肉が燃えてだいなしになったのを知る。ボリボリというパンにあるまじき食感が、午後に必要な気力を
遠ざけて……。生産者たちの嘆きの声が、料理人の無遠慮な笑い声にかき消されていった。
「食べられるタイプの廃墟、かな」
魔王のまねをして、皮肉をひとつ。
2品目はマッシュポテト。ビーツと小さく切られた人参の葉が相席していてかわいい。でも、食感は「ベチャ」だし、妙に硬いビーツが顎に入れる力加減を迷わせる。全体的に無味。「素材の味を生かした」という苦しまぎれのほめ言葉すら使う余地がないくらいに。
「……共同墓地」
紙につつまれた3品目を手に取る。小さく黒いグミのようなもの。日本で食べていたものよりも硬く、色も相まって強者感がすごい。舌の上に置くと広がる、独特な味。ダイオウイカの浮袋、古い時代の咳止め。自分の故郷では工業製品にも使われた、つまり塩化アンモニウム。
――これは食べ物じゃない。これは食べ物じゃない。食べても害のない、食べられるよう配慮された、食べ物以外のなにかだ。
なんとか飲みこみ魔界の食事に肩を落とす。腰にぶら下げた皮水筒に手をのばすと、横にならぶのは戦利品の入った袋。
開けて中を見る。暗い井戸のような袋の底から、いくつか指の欠けた右手が、こちらに手のひらをむけていた。
むやみに力を振りかざし、神様を馬鹿にし、この世界を踏みにじった『勇者』の体の一部。適切に保存されたそれから、新鮮な血の匂いが香る。
「あなたみたいな勇者がいるから、本物の勇者が迷惑するんだよ?」
怨嗟を吐く右手をイーダは笑顔で見下ろした。魔王たちが同じことをしたら、口の中へ他人の不幸でできた蜜の味が広がっただろう。
今自分はそうじゃない。けれど魔界の魔女として、ふさわしい言葉は知っている。
そう思った彼女は今日一番美味しいだろうそれに声をかけてあげた。
「ごちそうさま」と。
【作者より】
興味を持っていただき、ありがとうございます。
本作はローファンタジー風味のアンチヒーローものです。
第4回HJ小説大賞後期・2次選考突破作品
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-08-18 11:20:00
1387928文字
会話率:37%
昔書いた詩をまとめたものです。
音数律、頭韻、比喩(ケニング)を用いて、その日の気持ちを詩にしています。
最終更新:2023-08-03 21:54:49
971文字
会話率:0%
小国の王太子、俺ハロルド・ケニングスの婚約者リドリー・エールは天使だ。ある日、俺はそんな彼女に昼食会へと招待された。そこで出されたのは灰色のスパゲッティだった。
————「わんこそば、ですわ」「ワンコソバ? 何だそれは」
これは、婚約者にデ
レデレの、ある男の平和な昼下がりの物語である。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-05-05 17:28:16
2247文字
会話率:59%
かつて、世界を導いた存在があった。
彼らは強靭な肉体を持ち、神々の知恵と奇跡の力を操り戦った。
すべては弱き人々を守る為、あるいは己の思想信条や信仰の為。
いつしか彼らは「ヒーロー」と呼ばれた。
二度の世界大戦が終わると、彼らはどこかへ
消えた。
助けを求める人々の声は、21世紀の世界で行き場を失った。
だがまだ世界には、邪悪なる存在との戦いを続ける組織が残されていた。
彼らは闇の魔術結社「ハンムラビ・ソサエティ」
そして、一人の少女、茨城涼子が闇に助けを求める時、
災厄の暗殺者「ファイアストーム」がその声に耳を傾ける。
大いなる悪と、闇の魔術結社の骨肉の争いが始まろうとしていた……。
現代アクションバトル小説です。
※カクヨムでも掲載中。
※以下お知らせ欄
※もし話数の挿入違いによる落丁があったら活動報告から教えてね!
※16年8月25日
原稿修正時差し替えミスにより第四節「アウェイケニング ACT:4」にエピソードの落丁が存在していました。
現在は正しい原稿に修正されております。深くお詫び申し上げます。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2016-10-10 20:00:27
638107文字
会話率:38%