「えっ!」
朝、いつものように満員電車の中、立っていたおれは、驚いて思わず声を上げてしまった。ごまかすように咳払いすると、波が引くように周りの人々の関心が薄れていくのを感じた。
でも、あれは何だったのだろう……。おれの斜め前にいた男が
突然消えたのだ。
この混雑の中だ。二、三人を挟んで男の後頭部しか見えていなかったが、確かに、フッと消えた。しゃがもうにも、スペースさえない。
しかし、人が急に消えるなんてことがあり得るのだろうか。よくある髪型だった。見渡せば、似たような乗客が何人かいる。やっぱり見間違いだったのかもしれない。最近おれはミスが多い。この前も、怒られてしまったんだ。ああ、思い出すと朝から憂鬱だ……。
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最終更新:2024-10-01 11:00:00
2753文字
会話率:76%
「……レインボーインパルスを飛ばそう」
首相官邸の会議室。テーブルに肘をついて、顔の前で手を組んだ首相が静かにそう提案した。ブラインドカーテンから漏れ入る光が眼鏡に反射している。
総理の言葉に一同波打ったように身じろぎや咳払いをし、や
がて「それしかありませんな」「やむを得ない」「ううむ」と老齢の議員らが唸った。その中、比較的若い議員が目を瞬かせて「え、レインボー……?」と呟いた。
「なんだね?」と、その彼の隣に座る議員が眉を上げ訊ねた。
「いやあの、ブルーインパルスならわかるのですが、レインボーインパルスとは……」
「ああ、知らないのか」
暗い会議室に、ほのかな笑いが広がった。彼は恥ずかしさで顔を熱くしたが、この重苦しい空気を少し緩和することができたことを喜ばしく思い「へへっ、すみません」と笑みを浮かべ、無知な若者という役割を受け入れた。
「まず、ブルーインパルスが何か知っているね?」
「はい。航空自衛隊のPRのためのチームで、アクロバティック飛行でイベントを盛り上げていますよね。以前、新型ウイルスが流行した時に、対応に追われ疲弊する医療関係者にエールを送るために飛んだとか。ああ、あと地震の被災地にも飛んだはず。まあ、自分は医療従事者でも被災者でもないので、飛行機が飛んだくらいで喜ぶのかな、と思いましたけど、あ、すみません」
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最終更新:2024-07-29 15:00:00
1651文字
会話率:58%
「おぉー……意外だ」
と、思わず呟き、彼は咳払いをした。
独り言などは恥ずかしい。お上りさんと思われかねない。しかし、軽く辺りを見回してみれば、誰もが横になってのんびりしているようで、こちらを気にする様子はない。
「ここが天国かぁ
……」
彼は確認するようにそうしみじみと言った。
そう、彼は死んだ。つまらない事故で、死ぬには早い年齢だった。しかし、当人はそれをさほど惜しんでいなかった。地獄に堕ちると思っていただけに喜びの方が勝っていたのだ。
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最終更新:2024-07-08 15:00:00
1069文字
会話率:42%
最初、咳を出し始めたのはある民家の椅子だった。人の口のような裂け目が椅子の座る部分の凹みにできて男のように低くてそして痰がのどに絡んだように咳き込むのだ。その現象に初めて会ったある民家の女性は悲鳴を上げて椅子から立ち上がった。何しろ、いき
なり激しい風が自分のお尻に吹き込んできたのだから驚くのも無理はない。その女性はお尻にべっとりとついた粘着きを手のひらで拭い取りながら咳き込む椅子を見ているしかなかった。次に咳き込んだのは教会のじゅうたんだった。やはりこれにも人の口の大きさの裂け目ができて今度は女の声で咳き込んでいるのだ。飛沫交じりの咳はずっと収まらずに祈りをささげるどころではなかった。そして、この病は人にも伝染し始めた。街の人々はほとんどが寝込んでしまうほどだった。街から咳払いの音が消えることはなく夜はお互い耳障りで眠れもしなかった。
少年は同い年の友達ハスと共に弓を背負って街の外の丘の上に来ていた。丘の上かららせん状に爬虫類のしっぽをちぎったような紐が少しずつ重ねられてふもとまで渦巻いている。少年たちはそのらせんに沿うように丘を下って行って渦巻の端までやってきた。そこにいたのは羊の少女だった。羊の少女は爬虫類のしっぽみたいな紐を渦巻の端に重ねた。「これはね、竜のしっぽなんだよ」少年が訪ねるのも待たずに少女は答えた。「殺さなきゃだめだ」ハスが叫んだ。少年は震える手で弓に矢をつがえる。「ごめん、サーヤ」と少年が顔をゆがませ弓弦を引き絞った時、丘からふもとまで渦巻いていた竜のしっぽの連なりがうごめき始めうねり少年の頬をはたいた。少年は少しよろけながらも矢の切っ先を少女に合わせて弓弦から指を離した。矢は彼女の胸を貫いて、彼女は虚空に消えた。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2024-05-11 13:33:29
48681文字
会話率:40%
桃からは桃太郎。
竹からはかぐや姫。
そして、卵からはコロンブスがうまれる。
最終更新:2023-03-05 07:00:00
1148文字
会話率:0%
私達兄弟姉妹は今まで贅沢な暮らしをしてきた。
洋服を望めば新品の舶来品が手に入り、髪飾りをを強請ればエメラルドがゴロゴロと着いた立派なモノが幾らでも手に入った。
父は海運業で一代で財を成したマルセーユの大商人であるトーマスは、今頭を抱
えていた。
「行商を再開してはどうでしょう? 行商であればまだ活路はあるかと……」
「行商など大した稼ぎにはならん! 今必要なのは船だ! それも大きな大きな輸送船がな!」
しかし、自分の意見が現実身を帯びているとは思えない事を自覚しているのか、ワインをグッと煽った。
「行商ですと確かに稼ぎは低いですが、安定して利益を上げることも出来るでしょう……しかし」
「時間がかかりすぎる……それならば婚姻を結ぶしかあるまい」
四人の娘達しかいない訳で……私以外は器量がわるく大商人の娘と言う付加価値しかない訳で……必然的に私《マーサ》に白羽の矢が立つという訳だ。
二人そろってこちらを見た。
どうや自分たちからは言いずらいらしく、仕切りにゲホン、ゴホン咳払いをしている。
はぁ……家のため。いや従業員のためよ。
私は家のための贄になる事にした。千人を超える従業員を雇う大商会が潰れてしまうと、路頭に迷う人があまりにも多すぎるからだ。
私は自分を奮い立たせてこういった。
「私が嫁ぎ船団をそろえるだけのお金を用意して見せます」
父と番頭は手を繋いで子供の様にはしゃいでいた。
私は思わず握り込んだ拳をスッと体で隠して、殴りたい衝動を隠し笑顔を張り付けた。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-04-09 12:07:25
13241文字
会話率:42%
こんなじゃれあいをして、咳払いをされてみたかったです。
キーワード:
最終更新:2021-11-08 19:25:18
504文字
会話率:0%
「わからない。けど、俺ができるのは見て、書いて、話すことだけだよ」
出勤途中に異世界へ落下した男は、『訪問者』獲得を目的とした組織『訪問者管理組合』に保護される。
綿密な環境整備、面接のような質疑、手慣れた段取り。違和感を覚えた彼の質問で
発覚する事実。
彼のような『訪問者』は、世界各国に割り振られる資源として『異界の術』か『異能』を求められていた。
そんなものに当てのない彼は、唯一身につけていた基本異能『翻訳』を武器に、未知の世界と対峙する。
……と、思ってたけど。
割と平和な世界の下、王様に気に入られて宮仕え。
不安だった仕事も順風満帆だし、これ、結構勝ち組なのでは?
(咳払い)
これは、戦えない男が、世界を巡り世界を知り、やがて神と口喧嘩するお話(予定)。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-05-06 18:00:00
245843文字
会話率:38%
新しい生活にも慣れてきた五月。何気ない帰り道。
ただ何となく空を見上げていたところ、一瞬違和感を覚えたため軽く咳払いをし、視線を元に戻せば。
――――空が灰色に染まっていた。
色彩を無くした街に一人迷い込んだおれは、ひとまず家が物理
的に消失していることを確認し、まばたきの間に無人と化した街でのサバイバルを決意する。持ち物を確認。寝床を確保。おれ以外の人間と食糧の確保を目標に、早速無人街を探索。
――――そうしておれは、化け物と遭遇した。
異次元の世界へ迷い込んだ主人公。目撃したのはゲームの中でしか見たことがないような異形の生物。絶体絶命の危機。『我が子』と呼んでくる謎の亡霊。
そして異形から世界を守るべく戦う組織――――
異形と戦う者達に保護された主人公は、才能を見出され、異次元の侵略者から世界を守る戦いへ身を投じる事になる。
出逢いと戦い。日常と戦場。
その中で主人公は何を得るのか――――
異次元の世界で侵略者と戦い世界を守る、超能力バトルファンタジー。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-10-13 23:40:49
442537文字
会話率:21%
俺、小泉洸太はゲーム好きな隠れヲタクの高校一年生だ。今流行りのVRMMOに関してはかなりやり込んでいると思う。勿論彼女はいない。だが欲しい。ゴホン!(咳払い)
そんな俺だが…聞いて驚け!実は今日、新たなVRMMOの体験会に招待さ
れたのだ!あまりの嬉しさに飛び上がりそうになりながら会場に到着したのだが、そこでクラスメイトの佐々木実結に出会った。彼女はクラスで大人しく、あまり人と喋らない美少女、という印象しかなかったのだが…俺と同じタイプだったとは。
そんなこんなでいざ体験だ!となったのだが…いきなり仮想世界に放り込まれて⁈しかもその裏には大きな陰謀が…。
これはゲーム好きな普通の男子高校生が、クラスメイトの女子と共にこの世界の危機を救うために、希望を捨てず逆境に怯まないで生きる、そんな物語である。(にしたいです)
※拙い文章ですが読んで下さると嬉しいです。忙しいので不定期投稿です。週1は投稿したいかな…。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-08-29 08:00:00
4610文字
会話率:24%
子供の頃。誰だって一度は憧れる存在はあると思う。例え、それが偶像だとしてもだ。『無かった』だなんて、夢の無いことを仰っているそこの貴方。無かったとしても、あったと言うことにして話を聞いてくれ。
コホン。咳払いを一つして、話を続けようか。
そうそう、憧れている存在についての話だ。
例えば、それは。日曜日の朝8時半のTV画面から流れている、特撮ヒーローかもしれない。仮面を被って、バイクに跨って、数々のガジェットを使いこなして、怪人を打倒しているヒーロかもしれない。敵組織に捕まって望みもしない改造手術を受けた、悲しきヒーローなのかもしれない!
失礼。語り手本人が我を見失うとは。兎にも角にも、俺は某特撮仮面ヒーローに憧れていたんだ。
それが今から、10年ほど前の話。そして、唐突すぎるほどに夢が実現したのが、今から2年前。それからずっと俺は活動を続けている。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2012-01-26 02:56:01
2407文字
会話率:32%