瀬田は仏師である。飯田地方の展示即売会に誘われて仏の彫刻展示会を見に行く。そこで安曇ちかという不思議な美女に出会う。彼女をモデルに観音像を彫ることを決意する。制作のため、彼女の家に一泊する。
彼女の住まいは飯田地方の山奥、風越山の麓の白
山社奥宮の西側にある。山深い茅葺きの田の字型の粗末な住まいだが、瀬田は、妙に懐かしい気分になる。
安曇ちかは酒を買ってくると言って、家を留守にする。奥の部屋を覗かぬようにと言い残す。好奇心に負けた瀬田は部屋の中を見てしまう。そこの床下に3体の白骨死体があった。びっくりして部屋を飛び出した瀬田が見た物は荒れ立てた家と、鬼と化した安曇ちかであった。
鬼と化したちかは瀬田を五助と呼び、彼を殺そうとする。瀬田は必死に何故殺されるのかその理由を問う。瀬田の意識は過去生に飛ぶ。
瀬田の前世は新潟県糸魚川市、姫川の本流近くにあった梶谷村の五助だった。安曇ちかの棲む白山社奥宮を中心とした上下部落に塩の行商に行くのを、生業としていた。
ちかは下部落に住み、両親と3人暮らし。狩猟を生業とし、五助と婚約していた。
その年の3日間の秋祭りが終わる日、神の嫁取り神事(神への生け贄行事)として、安曇ちかのに家の屋根に白羽の矢が立った。これは翌年の秋祭りにちかが神の嫁になる(殺される)事を意味し、家から出る事を禁じられる。
その事を知った五助は早朝に安曇ちかを家から連れ出して、村の総代に駆け込む。
「神の嫁は家を出た。もはや神の嫁ではない」五助は昔からの言い伝えを声高に主張する。その上で白羽の矢を射たのは上部落の旦那衆からわいろを貰った神主だと暴露する。
しかし、総代の家に駆けつけた行商の親方が五助を叱りつける。いつまでもその事を言い張ると、お前の家族は梶谷村から追放され、お前はこの部落の者に殺されると諭す。
五助は愛する安曇ちかの前でちかは家を出ていないと主張する。ちかは家に閉じ込められ、来年の秋祭りを待たず、家の中の穴倉に生き埋めにされる。
その事実を知った五助は各地を放浪して仏様を彫り、ちかの霊安かれと、祈りの生涯を送る。
自分の前世の事実を知った瀬田は、鬼と化した安曇ちかに殺してくれと願う。そしてちかの霊が慰められるようにと、死の直前まで念仏を唱える。瀬田の首を絞める鬼のちかの眼から涙が流れる。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-08-21 10:02:40
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