僕こと現役高校生にしてネットオンリーのファンタジー作家である早乙女学の学校に突然転校してきた少女流谷大河は、出会い頭にこう言った、「私の前世は異世界の魔王の娘であり、同じく勇者の生まれ変わりであり我が父魔王の仇であるあなたに復讐しに来たの
」。
それはいかにも電波そのものの物言いであったが、僕は笑い飛ばすことなぞできなかった。何せそもそもこうして極日常的に異世界転生なんかが実現するようになったのも、僕の自作のネット小説『夢見る蝶《メガミ》は目覚めない』の大ヒットこそが原因だったのだから。
僕は異世界において勇者となって魔王退治をするという、思春期にありがちな夢を見ただけなのであるが、実は夢の世界こそあらゆる世界のあらゆる存在の『記憶』が集まってくる、いわゆる『集合的無意識』と呼ばれる超自我的領域そのものなのであり、あらゆるということは異世界の勇者の記憶も存在し得て、僕は夢を通して彼の記憶を己の脳内に刻み込み、まさしく『前世の記憶』そのままに勇者の記憶や知識を我が物としたのであった。
それに基づいて創られた『夢見る蝶は目覚めない』の大勢の読者たちも、読書を通じて刺激を受けて、夢の中で集合的無意識を介して異世界の住人たちの記憶へのアクセスを果たし、僕同様に自らの脳みそに刻み込むことによって、目覚めた後の現実世界で異世界人そのままの言動を行い始めて、事実上の『異世界転生』を実現していくようになったのだ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2018-01-26 20:00:00
13832文字
会話率:49%