ソロキャンプ、マラソン、テニス、映画鑑賞、小説執筆、プラモデル、DIY、ガーデニング、料理……世の中には、膨大にして多岐にわたる趣味で溢れている。そのほとんどが、目で楽しみ、肌で感じることを主眼に置いたものだが、全く正反対の“目には見えない
もの”を楽しむ趣味も、この世の中にはある。
オーディオ――「音」という“目には見えない電気信号の流動”を楽しむためだけに、高価なもので数百万もする機材を買い求める猛者を、人は「オーディオマニア」と呼び、恐れた。高額機材を物色するに飽き足らず、ケーブルの素材や電源の種類にまで並々ならぬこだわりを持ち、公共物であるはずの「電柱」を自宅にセットするために身銭を切り、「電力会社を変更することでアンプの音が変わる」などという、奇々怪々な噂で満ち溢れた業界。それがオーディオ世界の実情である。
なぜそこまでの、一見無駄とも思える努力を費やしてまで、オーディオマニアたちは「音」を求めるのか。そこには、“目に見えないもの”を求め続ける、人間の静かな狂気が隠されていた。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-12-16 18:05:24
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