ブローニングの詩集 Dramatic Romances and Lyrics は1845年、「鈴と柘榴」Bells and Pomegranates 第7巻として発表された。本書の前半は Dramatic Lyrics(1842)全部をそっ
くり再録しており、そちらは別に訳しているので飛ばした。だから内容としては Dramatic Romances とするべきかもしれない。とはいえ内容形式に於て Lyrics と何が違うか聞かれると、ちょっと答えられない。抒情詩といってもバラッド(物語詩)に近いものが大半であり、『劇的』と題しつつオペラチックな描写は前作と同様で、詩人の豊かな趣味が窺える。
Robert Browning(1812-1889)は、シャルル・ボードレール(1821-1867)と同時代のイギリス詩人で、上田敏『海潮音』(1905)以来「ピパの歌」一つで知られる有様だが。「アンドレア・デル・サルト」(『男と女』所収)を漱石がネタにし、大作『指輪と本』を龍之介が翻案し、ラフカディオ・ハーンが厨川白村はじめ後進に教えるなど、小説家には崇められた。反面、日本の詩人には必ずしも人気がなく、特に戦後日本現代詩人の態度は冷淡といってよい。それ故にか未だ全訳がなく、この翻訳は訳者自身が読みたかった、原典からの完訳を目指すものである。
訳出に際しJohn Woolfoad と Daniel Karlin の註釈、及び最近に入手した野口米二郎『ブラウニング詩集』(第一書房)を参照した。ヨネ野口の翻訳は詩と呼べるもので、全集ではないこと、絶版して久しいことが残念でならない。
固有名詞のカナ書きは既存の表記及び原産国の呼び方を優先したが、不明のものは辞書の発音を聞き書きした。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-06-09 23:45:06
126718文字
会話率:2%
レイモンド・チャンドラーの探偵小説に於て、主人公フィリップ・マーロウ曰く。
「詩人のブローニングだ、君は拳銃の方が好きそうだが」
銃器設計の天才 John Browning とビクトリア朝を代表する英国詩人 Robert Brownin
g(1812-89)の何れも知られていない我が国では、残念ながらこのネタも顧みられることがない。そこで、この詩人が編んだ詩集を訳出する。
詩集 Dramatic Lyrics は1842年、「鈴と柘榴」Bells and Pomegranates 第3巻として発表された。同シリーズは詩人から出版者への手紙によると、以前より大衆向けに廉価で親しみ易い小冊子として企画され、本書も民衆に関心の高い題材を選び収録数を14篇に絞った。Dramatic Romances and Lyrics(1845)に再録の際、若干の改変がある。翻訳には、この改訂版を用いた。
Lyrics は元来、リラに合わせて歌う曲であり、朗吟される Epics(叙事詩)に対比される。「ドラマ的な叙事詩」についてはアリストテレースが言及しているので、その向こうを張った題名になる。
詩人はイギリス人のくせにフランスやイタリアが大好きらしく、しげしげと旅に行った。イタリア・オペラを堪能し、フレスコ画を見て回ったのか、作品の至る所にそのネタが仕込んである。In a Gondola ではついていけず、Woolford と Karlin の注釈(LONGMAN 1991)に頼ったことをお断りしておく。
本書の原文は、作者の死後100年以上経過した public domain である。
Copyright(C)2020,Gaku Hagiwara. 本書の訳文は、GNU FDL に拠る Free Document とする。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-06-19 22:56:36
72871文字
会話率:2%
兄のオルトン・ブラウニングは絶世の美形である。
これはそんな一文から始まる、兄と義姉になるはずだったひとに関わる物語のような何か。
※R-15表記は念のため
最終更新:2019-05-05 00:00:00
20585文字
会話率:42%