毎夜のように、ナナミは夢を見る。
炎に包まれる中で、大切な物も人も、すべてが燃えてしまう夢。
現実のように、記憶のように、まるでその場にいたかのようにはっきりとしたそれが一体何なのか、分からないままナナミは今日も目を覚ます。
ナナミ
は『月の国』の王宮に勤める使用人だ。『月の国』の王子ランスが他国の視察中に倒れているナナミを拾い、身寄りの無い彼女を引き取ったのだ。
「『穂の国』の視察中に倒れている君をみつけたんだ」
その言葉を信じ、恩を返そうとナナミはナナミなりに一生懸命に働いた。
けれど次第に、この国の歪さをナナミは知ることになる。
『月の国』は四方を砂漠に囲まれている。オアシスを中心に建てられたこの国は、国土こそ小さいものの、交易の要所として栄える豊かな国だ。軍を持たず、城を警備するのは二十人ほどの兵士のみ。交易の要所を、もしくは水源を欲しがる国は後を断たない。軍事的に脆く、しかし笑顔の絶えない『月の国』を今日まで守りきってきたのは、ランス王子と三人の使用人だった。
ときには人を殺め、ときには己が傷つき、苦しみながら戦う四人の姿を知って、そしてナナミは思う。
こんなのは間違っていると。
そして、守りたいと。
たった5人の戦争が始まる。
ちっぽけな平和と真っ黒な地獄を胸の内に抱えながら。
そしてナナミは、ひとつの決意を抱く。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2017-12-07 17:00:00
205793文字
会話率:48%