東京在住で、大学を卒業し職業相談所に勤めて2年目になる西条琴子。10年前に同級生で親しい間柄だった柏木未生から、突然のメールを受け取る。突拍子もない文面に、誰かのイタズラだと思い込んだ琴子。しかしその翌日、ニュースで未生の名前を目にすること
になる。10年前、あうんの呼吸で通じ合っていた親友は、殺人を犯していた。三ツ谷聡史という、二回りほど年上の男性の首を、パソコンのコードで絞めて殺害。三ツ谷が生き絶えたあと、その場で食べかけのケーキを完食し、いつものようにベッドで眠った。しかも殺害現場となったマンションの部屋は、殺された三ツ谷が未生のために借りていたものだった。10年前の穏やかな未生のイメージとはつながらず、混乱する琴子。
そんな琴子のもとに、未生の国選弁護人となった原から連絡が来る。原はまだ若く頭の切れる男だった。「未生さんに、会ってほしいんです」拘置所の面会室で、アクリル板越しに顔を合わせた未生は、美しい女性に成長していた。思い出話はやがて、未生の生い立ちや恋愛の話にまでおよぶ。原は未生が三ツ谷殺害に到るにあたり、あまりに多くの苦悩や葛藤を抱えていたと予想をつけた。刑を少しでも軽くするのが弁護人の仕事だ。原は情状酌量の余地を見い出すべく、未生の苦難の道を辿る。大学時代のレイプ未遂、父の死、夜の仕事、そこには想像を絶するような出来事がいくつもあった。そしてその線上に浮かび上がるのは、幾人もの男たち。琴子は原を通して、全く知らない未生の姿に気付くこととなる。「私ね、私の知らなかった未生をもっとちゃんと知りたいと思うの」琴子の知る穏やかな未生とはかけ離れた、あまりに暴力的なもう一人の未生の姿。三ツ谷とはどこでどう出会い、なぜ殺さねばならなかったのか。裁判の日は刻一刻と近づく。
「ここでぜんぶを止めてしまわないと、私何もかもだめになる」
最後に未生が琴子へと書きつづった手紙の中には、未生の人生における最初で最後の恋の話が書かれてあった。淡い恋はどうして絶望へと変わったのか。これはひとりの女性が辿らざるを得なかった“運命“の物語。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-10-24 18:00:21
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