「僕は美しい物が好きなんだ。どうせなら、美しい娘を産んでみないか?」
何を言っているのだろう、この人は。
美しいも何も、何人産んだとて、今まで生まれた子と大差なんて出ないだろうに。
そこに耳を疑う言葉が、私アニエスの上に降り注がれた。
「僕の精子と傾国と言われる女性の卵子を、人工受精させて君の子宮に戻すんだ。君が産めば君の子だし、僕の精子であれば我がイクセント家の子に違いはない。………産んでくれないかなぁ?」
悪びれもせずに笑顔で囁く、金髪碧眼の麗しい顔かんばせの夫ロビンソン。
私達には息子も二人いるし、娘も一人いる。
もう子供は必要ではない今、人工受精など無用の長物なのに。
彼はただ言外に、私以外の女の子が欲しいと言っているのだ。それも美しい子が欲しいと。
その夜、私は泣いた。
声を殺して泣いていた。
夫は私のことを好きだと思っていたのに…………
私はすごい美女とまではいかないが、富裕階級の娘としてはそこそこ綺麗だと自負している。
勿論青色髪で薄桃色である私が、夫の美貌に太刀打ちなどは烏滸おこがましく、結婚も家格のバランスでなったものだ。それでもこの家の嫁として、妻として、母として尽くして来たつもりだ。
それなのに…………
この日から私は、夫のことを嫌いになり始めた。
それでも夫に逆らうことは出来ず、彼の指示する産科の門を叩くのだった。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-07-29 17:47:28
8839文字
会話率:19%
文芸社より2017年 自費出版。
1985年。排卵障害の不妊症である亜沙子は、不妊治療で病院に通っている。
夫の俊とは、大学時代に知り合い、不妊症であることを告げ、それを承知の上で結婚した。夫、俊の転勤先の浜松に住んでいたが、東京へ転勤で帰
ってきたのを機会に、HMG・HCG療法という排卵誘発剤による不妊治療を始める。学生時代に、医者の姉に紹介された病院で、結婚前に検査をした病院である。排卵しない体なので、妊娠は無理だと諦めていたが、病院の治療で排卵することが解り、子供が出来る期待が高まる。
俊の実家近くの湯島のマンションに住む。亜沙子は、結婚前から、俊の実家の楯端家の下町の家族の雰囲気が好きで、そこに家族の理想像をイメージする。長男の子供、舅姑に内孫となる子供を産みたいという願望にもなる。
注射の副作用に苦しみながら続けるが、排卵誘発剤で排卵させ、その時期に合わせて性交するタイミング療法では、なかなか妊娠せず、医者から人工授精を勧められる。戸惑いながらも人工授精を行って、やっと妊娠する。亜沙子の喜びは大きかった。病院スタッフや家族とも喜び合う。しかし、直ぐに稽留流産となって掻爬の手術する。その手術の日は、姉の3番目の子供の出産日と同じだった。手術後、亜沙子が静養していた実家に、姉が赤ん坊を連れて退院してきた。
気持ちの葛藤が有りながら、翌年から、また治療を始める。
直ぐにまた妊娠できると考えていたが、前年の治療期間を過ぎても、再度の妊娠は無く、医者から、不妊治療専門窓口の有る、体外受精に成功した病院を紹介され転院する。そこでの他の人の体験や、更に高度の不妊治療の情報を見聞きする。そのうち、その病院の雰囲気に違和感を感じ始める。
高度の技術のある病院での人工受精に期待が大きかったが、結局その病院でも人工授精に失敗して、不妊治療を続けることに疑問を感じ始める。
再び俊が浜松に転勤になる時期が近づき、俊の意見に従って、夫の良き伴侶で有れば良いと考え、不妊治療を諦めてしまう。
その後も不妊治療を自ら諦めたことに敗北と罪悪感を抱き続ける。一連の喜びと悲しみ、全ての想いを心の奥底に沈殿させた。
2012年。4月から東京に戻ることになった。25年の期間を経て至った今の心境。押し殺してきた『沈めた想い』を今一度、見つめ直したいという気持ちになる。。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-09-22 10:00:00
59632文字
会話率:26%
沈めた想い 続き
1985年。排卵障害の不妊症である亜沙子は、不妊治療で病院に通っている。
夫の俊とは、大学時代に知り合い、不妊症であることを告げ、それを承知の上で結婚した。夫、俊の転勤先の浜松に住んでいたが、東京へ転勤で帰ってきたのを機会
に、HMG・HCG療法という排卵誘発剤による不妊治療を始める。学生時代に、医者の姉に紹介された病院で、結婚前に検査をした病院である。
排卵しない体なので、妊娠は無理だと諦めていたが、病院の治療で排卵することが解り、子供が出来る期待が高まる。
俊の実家近くの湯島のマンションに住む。亜沙子は、結婚前から、俊の実家の楯端家の下町の家族の雰囲気が好きで、そこに家族の理想像をイメージする。長男の子供、舅姑に内孫となる子供を産みたいという願望にもなる。
注射の副作用に苦しみながら続けるが、排卵誘発剤で排卵させ、その時期に合わせて性交するタイミング療法では、なかなか妊娠せず、医者から人工授精を勧められる。戸惑いながらも人工授精を行って、やっと妊娠する。亜沙子の喜びは大きかった。病院スタッフや家族とも喜び合う。しかし、直ぐに稽留流産となって掻爬の手術する。その手術の日は、姉の3番目の子供の出産日と同じだった。手術後、亜沙子が静養していた実家に、姉が赤ん坊を連れて退院してきた。
気持ちの葛藤が有りながら、翌年から、また治療を始める。
直ぐにまた妊娠できると考えていたが、前年の治療期間を過ぎても、再度の妊娠は無く、医者から、不妊治療専門窓口の有る、体外受精に成功した病院を紹介され転院する。そこでの他の人の体験や、更に高度の不妊治療の情報を見聞きする。そのうち、その病院の雰囲気に違和感を感じ始める。
高度の技術のある病院での人工受精に期待が大きかったが、結局その病院でも人工授精に失敗して、不妊治療を続けることに疑問を感じ始める。
再び俊が浜松に転勤になる時期が近づき、俊の意見に従って、夫の良き伴侶で有れば良いと考え、不妊治療を諦めてしまう。
その後も不妊治療を自ら諦めたことに敗北と罪悪感を抱き続ける。一連の喜びと悲しみ、全ての想いを心の奥底に沈殿させた。
2012年。4月から東京に戻ることになった。25年の期間を経て至った今の心境。押し殺してきた『沈めた想い』を今一度、見つめ直したいという気持ちになる。。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-09-22 09:30:15
39970文字
会話率:24%
八十才を超えた元医科大学産婦人科医の私の元に、結婚を約束した若い二人が訪ねてきた。その二人のうちの男は、二十数年前に私の治療により実の母親の卵子でもなく、また実の父親の精子でもなく、まったく他人の卵子と精子を使った体外授精児として生まれた男
だった。
その男は、自分が結婚相手の女性と実の兄妹ではないかとの懸念により、私のところに訪ねてきたのであったが…。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-01-09 12:48:32
8769文字
会話率:61%
生きている人を求めて彷徨する男女。
エブリスタに投稿した作品を修正した作品です。
最終更新:2020-03-11 14:00:00
2077文字
会話率:30%