「本日を以って私は離婚することに致しました」
何の脈絡もなく突然彼女は言った。それは侯爵家で催した夜会が終わった直後のことだった。
夫はそれを聞いても言われた言葉の意味するが理解できずにポカンとした。
しかし夫の父親の方は彼女
の言葉にすぐに反応した。
「突然何馬鹿なことを言っているんだい? 君は息子と離婚したら、それこそ行くところがないだろう?」
「ご心配はいりません。
お義母様がずっと管理をして下さっていた、亡き両親の家があります。だからそこへ帰ります」
「しかし、君の両親は領地を持っていなかった。生活費はどうするんだ」
「もちろん働きますわ。以前よりあちらこちらからお話は頂いておりましたので」
「お前は娘を溺愛している。娘を置いて出て行くはずがないよな。
いや、そもそもお前がここを出て行く理由がない」
夫のこの言葉に、妻は呆れたような目をしてこう言った。
「愛する娘をこんな所に一人置いていくはずがないでしょう。もちろん私が連れて出て行きますよ。
それに私が出て行く理由がないですって? よくそんな馬鹿なことを言えますね。この屋敷にいる者達は全員知っているというのに」
「た、確かに何度か浮気をしたし、君には辛い思いをさせた。しかしそれは過去のことで、君も許してくれたじゃないか!」
「許した覚えはありません。それに過去の話じゃないでしょう。
私と離縁して一緒になりたがっていたあの子爵令嬢様とはお別れになったのでしょうが、今はどこぞの男爵の未亡人の方と関係をお持ちでしょう?」
妻の言葉に夫は呆然とした。何もかも誤解だ。できることならやり直したい、彼は強くそう思ったのだった…折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-06-10 17:00:00
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