どうせ会社を辞めるのだ、どうなったって構いはしない。
その日、白築(しらつき)アリスはそれまでの二十六年の人生で、一番自暴自棄になっていた。
理由はありふれたもので、婚約者の浮気である。
しかも。
「白築さん。斎藤くんから聞いて
いた話は、事実だったのね」
「はい?」
「あなたが、斎藤くんにストーカーしているっていう話」
私が、ストーカー!?
彼に何かとお金をせびられて、結婚するからと深く考えずに渡していたら……
「入社以来『彼女がいるから、付き合うことはできない』といくら斎藤くんが断っても、あなたのほうから『遠距離なら少しくらい遊んでもバレないから』と執拗に迫ったのだとか。しかも最近になって『ホテルに行かなくても、一緒に食事してくれるだけでもいい』としつこく言って、何度も奢らせてずいぶんお金を使わせたんですって?」
アリスに「付き合っていることは、まだみんなには内緒に」と言っていた婚約者は、用意周到に社内に嘘の噂を広めていたのだ。
誰も、アリスの言い分に耳を貸さないように。
このままだと、絶体絶命。
会社を辞めるしか無い。
自暴自棄になったアリスの前に現れたのは、創業者一族の若手エリート、王子様キャラの弓倉海(ゆみくら・うみ)。
(お付き合いして陥れられるにしても、弓倉さんレベルだったら納得できたのに……!)
やけっぱちになったアリスは、海のもとへと歩み寄り、ぴたりと寄り添って明るい声で宣言したのだ。
「なんのことかわからないんですけど。私、弓倉さんと結婚を前提にお付き合いしています! 来月の誕生日に入籍しようねって、昨日も話し合ったばかりで」
嘘だった。
もうどうにでもなれ。
人生の最後に、イケメンの彼氏がいたという妄想にでも浸りたいだけ!
そんなアリスを抱き寄せて、海もまた笑顔できっぱりと言い放った。
「実はそうなんです。僕たちお付き合いしているんですよ。いい機会だから皆さんも知っておいてください」
え……
ええーーーー!?
ただの自棄で嘘とはったり、しかし引っ込みがつかなくなりまさかの御曹司と婚約!?
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