帝都・青龍京に暮らす陵家の姫、綾乃は、わずか十歳で道の途中で垣間見た図書頭・紀文雅殿に淡い恋心を抱く。彼から漂う清らかな白梅の香に心を奪われた綾乃は、直接会うこと叶わぬ身ゆえ、想いを歌に託して文雅殿に送ることを決意する。
最初の文には返
事がなく、失意に沈む綾乃だったが、文を届けた女房・橘から、文雅殿の屋敷から白梅の香が濃く漂っていたと聞かされ、一縷の希望を抱く。今度こそと、綾乃は夜にだけ香る不思議な「夜の花」に歌を添え、二度目の文を送る。しかし……。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-30 20:30:00
6590文字
会話率:25%
都で奇妙な病「たたり病」が広がる。体がだるくなり、夜になると「うらめしや」という不気味な歌声や物が転がる音が聞こえるという症状に、人々は怯えていた。医者や陰陽師も原因を特定できず、不安ばかりが募る。
五条大橋のたもとで薬飴を売る若者、文
吉は、この病が心に根差していると感じ、その正体を突き止める決意をする。顔の下半分を布で隠し、多くを語らない彼自身も、何か秘めた過去を抱えているようだった。
ある夜、「たたり病」に苦しむ女の訴えを受け、文吉は深夜の五条大橋へ向かう。月の隠れた静寂の中、風に乗って聞こえる「うらめしや」の声と不気味な物音を辿り、彼は河原へと降りていく。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-28 18:02:11
5937文字
会話率:32%
中納言の姫、月白は、都の貴公子たちに「花の君」と囁かれるほどの美しい容姿を持つ十九歳の少女だ。右大臣の嫡男との婚儀が決まり、誰もが雅やかな縁談だと祝う中、月白の心には誰にも言えない秘めたる想いが深く根ざしていた。それは、彼女の異母兄である
蔵人頭の朝霧への禁断の恋だった。
都の慣習では兄妹の親しい交わりは禁忌とされ、二人が言葉を交わせるのは月に一度、病に臥せる母を見舞うわずかな時間だけだった。しかし、その短い時間に朝霧から漂う墨と白檀の香が月白の心を強く揺さぶり、彼の視線が薄衣越しに自分を捉えるたび、彼女の胸は抑えきれない熱を帯びる。叶わぬ恋だと知りながらも、月白は禁忌の想いを綴った和歌を密かに詠み、文箱に仕舞い込む。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-27 19:02:11
6144文字
会話率:8%