都の西、学問の中心たる白虎府。秋の深まる宵、右京大夫の聡明な姫、紫月は、類い稀なる書の才を認められていた。その筆跡は歌に込められた感情を鮮やかに描き出すが、彼女の心には、父の友にして既婚の陰陽師、千早への秘めたる想いが深く根を下ろしていた。
二人の出会いは、千早が解読を依頼した古き陰陽道の秘術が記された写本を巡るものだった。夜を徹して写本に向かい、墨の香りの満ちる部屋で言葉を交わすうち、理知的で彼女の才を尊重する千早に、紫月は心を奪われていく。ある夜、写本を返す際に触れ合った指先が、禁忌の情を鮮烈に紫月の心に刻みつける。その夜、彼女は叶わぬ恋の切なさを綴った和歌を密かに書き記し、文箱の奥へと仕舞い込んだ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-25 08:39:19
5300文字
会話率:16%