他人から見れば「ただのモノ」でも、当人にはそれ以上の存在ってありますよね。
人は前だけ見て進む事は出来ない生き物だと思うんです。
少なくとも物書きにとってはね。
最終更新:2025-03-01 10:28:11
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初めて彼女に出会ったのは八年前のことだと記憶しているが、その日が暑かったのか寒かったのかさえも覚えていない。とにかく仕事中の昼食で偶然入った和食レストランで、彼女はウエイトレスをしていた。その時の年齢は十六歳で、アルバイトを始めたばかりの高
校生だということが後になって分かったが、丁寧で親しみのある接客からは一人前のものを感じた。いわばそんな子供のことをなぜ32歳にもなる私が気にかけたかというと、ふと、何の気になしに彼女の方へ眼がいった瞬間、といってもガラスの反射に映る彼女を見ただけだが。彼女の顔の前を飛ぶハエを確かに親指と人差し指でつまんでみせたからである。もしくは既につまんでいたと言えばいいか。女子高校生のやる行動としてはあまりにかけ離れていたし、さらに人間離れした手の動きに混乱した。
さらに彼女はためらうこともなく、チョコレートを食べるようにハエを口に運んだ。変な緊張が走り呼吸の仕方を忘れた私は本能的に目をそらしたが、目をそらす間際に彼女とガラス越しに目が合ったような気がした。いや、目が合ってしまった。
見てはいけないものを見たという気持ちと、ただの見間違えだという感情に挟まれつつ思わず小さく咳をしたところ、優しく彼女が駆け寄って声をかけてくれた。なんだか彼女を見ることができず、大丈夫だからと応えてすぐに会計をした。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-11-02 00:22:10
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