あらすじ
スキージャンプのオリンピック候補強化選手だった私は、スランプに苦しみ選手生活を断念した。
大事な試合になると、あがって力んでしまう私は、この競技に不向きだった。
大学三年の学年末試験を最後に退学し、故郷の北海道に帰る。
その日、
合宿所にファンレターが届いていた。その人は、「私は松葉杖で歩けるようになりました」とあって気になった。
残雪の高校のグラウンドを訪れた。毎日、ランニングに励んでいたコースを辿った時、その手紙の人の住所を見つけた。
私は、恩師の世話で地元の建設会社に就職した。そして、総務課の一員としてスキージャンプ部の手伝いをすることになった。
その家を訪れてみると、小児麻痺の少女だった。その人は、私たちがランニングする姿を、二階の窓から眺め、応援してくれたのだ。
その人は萎えた左足の手術を受けた。ひたむきに努力する姿に心打たれた私は、リハビリを手伝った。彼女は一歩ずつ歩数を伸ばした。ゆーら、ゆーら、体を揺らしながら歩いて、手を伸ばした私の胸に飛び込んでくる。
私も、その人に負けずにトレーニングに励んだ。
シーズンになった。私は、皆よりも遠くまで飛べた。
ゲートバーに腰かけて、スタートの合図を待つ間、私は空中に少女の姿を思い浮かべる。歯を食いしばって必死に歩こうとする美しい顔。「さあ、おいで」と、私は両手を差し伸べる。彼女の、ゆーら、ゆーら、ゆーら、体を揺らして足を踏み出すリズムに合わせて、私は鋼鉄製のバーを、タァーン、タァーン、タァーン、と叩いている。
そうやって、私はジャンプ台と一体になり、恐怖心と気負いの心を抑える、静のリズムを得た。そして、風が収まりスタートの合図が出ると、タン、タン、タン、と駆け足の動のリズムになって、無心でアプローチ斜面に挑む。
猪突猛進の私が復活した。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2016-01-23 21:10:21
45250文字
会話率:16%