この作品の語り手の少年はクローンの人間である。作中に出る「あの頃の僕の日記」は実は彼自らではなく、彼のコピー元の亡くなった少年が書いたものである。亡き少年が自分の記憶をクローンの彼に残すべくして毎日細かく書いた生命記録がその「日記」である
。そして、クローンの主人公にまだ予備のクローンが用意されてある。彼、クローンは、いずれ自分が死んだら、元の少年が書いた「日記」のみならず、クローンの自分がその日記を読んだ時の感想、という自分が生み出したアイデンティティをも次のクローンに伝えるために、元の日記に「解説」を書き加えた。この「日記」と「解説」を合わせ、彼ら2人の視線に観察されたもう一人の、彼らと似た状況にある、クローンに記憶を残そうとする、「ヒメ」という名の少女の生き様を書き記した。
ヒメは3年間をまたがる膨大な計画を巡らせ、少年の殺意を煽りヒメ自らを殺すように計らった。自らの死と同時に体内の核融合炉を暴走させ殺人者の少年を道連れにした。目的は「殺したいほどの憎しみというもっとも激しい感情と、殺人を起こしたあとの我が身を案じる恐怖が、少年の日記を辿ってクローンに伝わるかどうかを確かめることである。そして、自分の科学者としての使命感と、弟の少年を翻弄さ悲惨な最後をと遂げさせた罪悪感が、クローンに伝わるかどうかを試すという同時進行のもう一つの実験例でもある。」
それから、そもそも全ての計画の首謀者ー彼らの父親には、クローンに記憶を残す形で寿命の制限を越える新しい人類の祖となるべくして育んだ二人の絆を深まらせるのと同時に、彼らの持ち得るすべての感情を身内に一度体験させ、他の人間の思惑に惑わされ難いように仕立てる意図もあった。
斯くして二人は殺し、殺され、死に、蘇る、というような過程を辿り、強化された兄弟の絆を得る。それからは国際的なテロリスト集団を束ね、技術の進歩に伴わず停滞した道徳倫理に未だに支配されている世の中を急進化させて行くのである。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2014-07-23 04:38:18
44820文字
会話率:59%
この世界はこんな存在に支配されているのかもしれません。
最終更新:2011-03-12 11:14:44
2578文字
会話率:0%