人類が知性を得た代償か、地球は残された大地すら、砂と海が飲み込んでいく運命にあった。
地上より突き出た巨大な黒柱によって通信手段を阻まれるなか、人々は限られた土地でつつましく、されどたくましく生きていた。その黒柱は生活のいち風景となり、
いつしか<ジャミング・タワー>と呼ばれるようになる。
やがて人類は寄り添うように統一国家「地球連合」を樹立。黒柱の妨害を免れる独自の通信網<UCS>を整えることに成功する。
さらに半世紀あまりが経つと、次に人類は、宇宙へ逃げ場を求めた。人型を主とする巨大作業用重機<グスタフ>の普及がそれを後押ししたのである。
結果、循環型社会としては未成熟ながらも、地球と月の中継点に<レジデンス>と呼ばれる人工居住地が建設される。月への移民計画<プロジェクト・ノヴァ>が始動するのはこの頃だ。
こうして再び人類は、アポロ計画から実に一二三年の時を経て、有人の調査隊を月面へと送り込む。
久方ぶりに銀砂を踏んだ彼らの使命は、新天地に適したクレーターを探すことだ。
だが、彼らとの交信は即日、途絶える。
救援が向かうのに、そう時間はかからなかった。が、これも突如として消息を絶つ。
人々はいよいよ「よもや月になにかあるのか」と訝しんだ。ゆえに続く第三陣の装いは、さながら軍隊の様相を呈した。
そして彼らはようやく、宙域を漂っていたグスタフの残骸を発見する。
回収された行動記録器。それに残されていたものは、非常に奇妙な映像だった。
月面にそびえ立つ白い塔の下、一面を黒いなにかが埋め尽くし、蠢いている。
人影だ。
その、おぼろげで輪郭のはっきりしない人影が、耳をつんざくような奇声を上げながら駆け、機体に次々と群がってくる。搭乗者である男の悲鳴で締めくくられるそれを見て、学者らは首をひねった。
「――月面に人がいる?」
時は流れ、西暦二二〇〇年。
世界からつま弾きにされ、月の庇護なしでは国という体裁を保てない小国・日本。
威武神楽夜(いぶかぐや)は、その山中で弟・朔夜(さくや)とともに養父の帰りを待つ、黒髪赤眼の少女である。
なくした過去を求めるかの娘が、黄金の騎士と対した時――。
終焉への引金は引かれ、ひとりの少女の、そして人類の、夢の終わりがはじまる。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-02-04 21:05:06
794505文字
会話率:29%
銀砂を撒いたような星々と、満ちかけた月が夜空に浮かんでいた。
風のない夜で、森は恐ろしく静かだった。
月はもう高い。獣道の中、ひとり帰路を急いでいた女は、自分の他に足音がある気がして、ふと足を止めた。
その時、背後から疾風のように何かが
近づいてきて、女の口を塞いだ。抵抗どころか、悲鳴を上げることすらできず、女の意識は闇の中へと落ちていった。
それきり、女の姿は消えた。森の小道の中には、疾風の名残りにそよぐ草が、さらさらと音を立てているばかりだった。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-05-01 02:08:00
81117文字
会話率:44%
世の中を斜に構えて真面目な日々を過ごしている高校生の男 辰巳和也
平凡な日常を送ろうとしている彼が
突然現れたヤンキー女に人生をかき乱される話。
最終更新:2020-03-12 04:43:50
700文字
会話率:11%
詩人が語るは神話のお話。かつて満ち溢れていた黄金の時代のお話。
かつて世界を覆いつくすほどの人が存在した。ありとあらゆるものが繁栄し、平和な時代を築いていた。
そんな世界に、悪魔は目を付けた。
彼らは自身の力を黒い巨人に、ディ
アブロに変えて黄金の世界を侵攻した。
争う力を持たぬ人々はディアブロに襲われ、多くが命を落とした。そして誰か天に祈りを捧げた。
―――おお、神よ。これが試練だとしたらあんまりです。誰かなにとぞお助けを。
その誰かの祈りは天に通じた。
祈りを捧げた物の前に現れたのは白の巨人が織りなす軍勢、名を訪ねるとアルビオと名乗った。
巨人は語る。
―――我々の宿るこの依代に、あの悪魔を完全に打倒するだけの力はない。だが、人の力を借りればあるいは。
そう告げて、自身の体の内に人を乗せた。
―――我々はこの依代である体の使い方を知らぬ。だから依代の体を見事操ってあの悪魔を打ち果たすのだ。我々はそのための剣となろう。
軍勢の巨人であるアルビオは、人の力を借りてディアブロに立ち向かった。一人では敵わない敵に対し、人の力を借り軍勢の力を束ねて立ち向かった。
そうして、幾年の間を戦いに明け暮れ、悪魔の力の本体を世界から打ち払うことに成功した。
―――我々と人の勝利だ。誇れ人よ。我らはこの依代から去ることにする。
そうして、黄金の時代は崩壊し、その破片は銀色の砂へと変化し、世界に降り積もった。
降り積もった砂がアルビオの依代を覆いつくし、銀色の大地が出来上がった。
舞い上がる砂は、かつてのアルビオの依代が、悪魔の侵攻を防ぐための結界として世界を包み込んだ。
―――そうして出来上がった銀色の砂が世界を包みこむ、誰が言ったか銀砂の時代。
神話の時代は終わり、再び人の時代になったのである。
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・このお話は、現代世界の秩序崩壊後、魔物と戦う巨大人型兵器の整備兵を目指して、なぜか戦闘任務に就かされる主人公のどうしてこうなったなお話です。
※不定期連載予定となっております
※内容に関し、思うところがあり、作品再構成のため一時凍結をします。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2016-09-03 23:00:00
20187文字
会話率:42%
広大な銀の砂漠。「僕」の集落からは、いつも夜が来るたびに夜の声が聞こえていた。
赤い咆哮が響いた夜、聞こえなくなった声に、「僕」は、主がいるのであろう砂の塔まで確かめに行くことに…。
自ブログ「サイハテの地」投稿作品
最終更新:2015-01-31 15:04:08
6463文字
会話率:5%
雪が、しんしんと降り注ぐ中、傭兵ジオラートは、吸血鬼が棲む廃墟に向かって続く路を歩いていた。
「退治してくれ」と言う依頼のもと、刃を握り締めて会いに行く吸血鬼は、かつて傭兵団に所属していた頃、思い出に残る場所を滅ぼした存在だった。
そ
の街で出会った一人の少女の事を思い返しながら、ジオラートは考える……「今夜は『赤い雪』が降りそうだ」、と。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2012-11-01 00:00:00
6217文字
会話率:36%